1.高血糖と『内臓脂肪』

太り過ぎかどうかを判断するとき、BMIを使うことが良くあります。

計算式を書いておくと、

体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

体重を身長の二乗で割って算出します。

数値が18.5以上25未満に収まっていれば、標準体重です。25以上あると、肥満ということになります。

有疾病率が一番少ないのは22あたりなので、BMIが22になる体重がその人の理想体重といわれています。

しかし、BMIは身長と体重だけしか見ていませんので、アスリートのように筋肉量が多く重たい人は肥満の判定が出てしまいます。ですので、BMIは普通の人が体重と身長のバランスを見るときに使用するものといえます。

体内のエネルギーが余っているとき、ブドウ糖や脂肪は脂肪細胞として蓄積されます。

OECDのデータによると肥満は世界的に増加しています。日本国内を見ると、男性の肥満者が増加傾向です。

厚労省で行っている最近の「国民健康・栄養調査」の結果、男性30代から70歳全体でみると30%の人が肥満となっています。

1982年と2016年の変化の様子を見ると、男性では30代から70代各年代で肥満者の割合が増えています。

例えば30代は、1982年では19%だったものが2016年では29%に上がっていますし、50代では22%が35%に上がっています。

半面、女性に関しては肥満者の割合が各年代減少傾向にあります。

肥満者が気を付けなければいけないのが「メタボリックシンドローム」です。ただし、単に太っているだけではメタボリックシンドロームとはいいません。

内臓脂肪の蓄積(腹囲が男性で85㎝以上、女性90㎝以上)

に加えて、

①高血圧、②高血糖、③脂質異常

の3つのうち2つ以上に該当している人を「メタボリックシンドローム」といいます。

体脂肪には「皮下脂肪」と「内臓脂肪」があります。

悪さをするのが溜まりすぎた内臓脂肪です。

脂肪細胞からはホルモン様物質が何種類も分泌されていて、これらの物質が人の健康状態に影響を与えます。

内臓脂肪が少ないときに、つまり、正常の体重であるときは、よい働きをする物質が分泌され、よい効果を発揮します。しかし内臓脂肪が増えすぎるとよい物質の分泌が減りまたは効かなくなり、逆に悪い働きをする物質が分泌されるようになります。

この現象が、高血圧、糖尿病、脂質異常を招くことになります。

肥満状態というのは、内臓脂肪において慢性的な炎症反応が起きている状態です。

血管で炎症反応が起きると血管が傷つき、それがもとで壁が硬くなり同時に厚くなって動脈硬化が進行することになります。動脈硬化を起点として、心臓疾患や脳血管疾患へとつながっていきます。

太っているということは内臓脂肪がたまっているということです。たまりすぎた内臓脂肪が病気の根源となってしまうのです。

脂肪細胞から分泌される生理活性物質を総称してアディポサイトカインと呼びます。「アディポ」は脂肪、「サイトカイン」は生理活性物質の意味です。代表的なものにアディポネクチン、レプチン、TNF-α、PAI-1などがあります。

では、糖尿病と内臓脂肪の関係を見ていきましょう。

厚生労働省の2016年「国民健康・栄養調査」では、日本国内には糖尿病が強く疑われる人が1,000万人います。さらに糖尿病の可能性を否定できない人も1,000万人います。実際に治療を受けている人は316万6,000人です。

下の図20-1、20-2、21は平成29年「国民健康・栄養調査」からの抜粋です。

2017年「国民健康・栄養調査」より

糖尿病の合併症として「腎症」「網膜症」「神経障害」があります。

ヒトは正常なとき空腹時で70~100㎎/㎗のブドウ糖が血中にあります。これを上回ってしまうのが糖尿病です。

すい臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されるインスリンは、血糖値を下げる唯一のホルモンです。ブドウ糖を筋肉の細胞や肝臓に移行して血中のブドウ糖値を下げる働きをします。

血糖値を上げる働きをしているホルモンには膵臓ランゲルハンス島α細胞から分泌されるグルカゴン、副腎髄質から分泌されるアドレナリンや副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドがあります。これらのホルモンがバランスを保ちながら血中の血糖値を一定の範囲に保っているのです。

ランゲルハンス島を構成する細胞の7割くらいがβ細胞でα細胞は2割ほどです。もう一種類、δ(デルタ)細胞というのがあり、ソマトスタチンという物質を分泌しています。 ソマトスタチンの主な役割は、ランゲルハンス島細胞全体から分泌されるホルモン量の調節を行うことです。

糖尿病はインスリンの働きが悪くなったり分泌量が減ってしまったりすると発症する疾病です。血糖値が高くなると「糖化反応」が起こります。

糖化反応とは、糖とアミノ酸が反応する現象です。血糖値が高いほど反応が起きやすくなります。

日常生活の中では、焼き肉の焦げ目、パンを焼いたときの焦げ目などが糖化反応です。これと似たような反応が体の中でも起きているのです。

糖化反応は発見者の名前を取って「メイラード反応」とも呼ばれています。糖化反応の結果できるさまざまな物質が糖尿病の合併症を生みだしていると考えられています。

糖化反応によって生み出された物質を総称して「最終糖化産物(AGEs)」といいます。AGEsはもともとあった物質ではないので免疫細胞が反応してしまうことがあります。免疫細胞が攻撃を加えた結果「炎症反応」が生じます。これが血管に損傷を与えるのです。

内臓脂肪からは様々なアディポサイトカインが分泌されています。内臓脂肪が少ないうちはアディポネクチンという善玉物質が分泌されています。

この物質には、血管の傷を修復する働きがあり動脈硬化を予防します。同時に、インスリンの働きを高め、血圧を下げる作用もあります。

しかし、内臓脂肪が増えると、アディポネクチンの分泌が減り、動脈硬化を防ぐ働きが低下します。さらには「インスリン抵抗性」が大きくなり血糖を上昇させてしまいます。

アディポサイトカインのひとつにレプチンがあります。

レプチンには、食欲を抑える働きがあり、内臓脂肪が増加すると分泌が高まって食欲を低下させ、エネルギー消費を亢進し肥満を防いでいます。

しかし、脂肪がたまりすぎると、レプチンが分泌されても満腹中枢の食欲を制御するシステムが適切に反応しなくなってきます。これを「レプチン抵抗性」といいます。実際、肥満症の人の血中のレプチン濃度は、正常な人よりも高くなっています。

レプチン抵抗性が増すと食べ過ぎて肥満していきます。

という流れで糖尿病を発症します。

インスリン抵抗性が増すとすい臓は頑張ってたくさんのインスリンを出すようになります。β細胞を増やしたり、細胞の容積を大きくします。どんどんインスリンを出すようになって、結果、「高インスリン血症」となります。

高インスリン血症に伴い、肝臓での脂質合成が亢進され、sd-LDLの増加や血管内皮細胞異常に伴う酸化ストレス亢進による変性LDLの増加がみられるようになります。

sd-LDLというのは通常のLDLが小さくなったものです。酸化されやすく、小さいので血管壁に潜り込みやすくなりコレストロールを血管に蓄積していくものです。高インスリン血症そのものが動脈硬化につながります。

すい臓の頑張りもいつまでも続くわけではありません。そのうち疲れて、インスリンの分泌自体が少なくなってきます。インスリンの分泌不全です。そして、糖尿病を発症する、ということです。

糖尿病(Ⅱ型)は、内臓脂肪が起点となっているのです。

2.『高血圧』と内臓脂肪

ナトリウムの取り過ぎが高血圧の原因のひとつです。しかしナトリウムは、生物にとってなくてはならない必須ミネラルなのでもあります。

日本人の1日の塩の摂取量は10g程度で、40年前に比べるとだいぶ少なくなっています。しかし、高血圧の患者数は増加しています。これは高血圧が塩分の取りすぎだけではないことを示しています。

2016年「患者調査(厚労省)」によると、高血圧で治療を受けている人の数は1,010万8,000人となっており、前回の調査(2013年)に比べて約104万人増加しています。

高血圧の原因として注目されているのが肥満です。BMIが正常域(18.5以上25未満)の人と比べると、25以上の人は2~3倍、高血圧を発症する割合が高くなっています。

なぜ、肥満は高血圧を招くのでしょうか。

①肥満すると内臓脂肪の過度の増加によってインスリン抵抗性が増します。内臓脂肪が分泌するアディポサイトカインが悪さをするわけです。

高濃度のインスリンは交感神経を活性化させます。交感神経が活性化すると血管を収縮させ血液が流れづらくなり、心臓が送り出す力も強くなっていきます。その結果、高血圧になると考えられています。

②アンジオテンシンという生理活性物質があります。この原料であるアンジオテンシノゲンは肥大化した脂肪細胞から分泌されます。複数の酵素のはたきの結果アンジオテンシンが生成されます。

アンジオテンシンは、心臓の収縮力を高め、細動脈を収縮させる働きがあり、血圧を上昇させます。

正常時では、アンジオテンシンは血圧を一定に保つ役割の一端を担っているのですが、肥満するとバランスが崩れてしまうのです。

③アンジオテンシンはほかの作用もあります。

アンジオテンシンが副腎皮質に働き、アルドステロンの合成・分泌を促進します。このアルドステロンの働きによって、腎臓の集合管でのナトリウムの再吸収を促進し、これによって血液量が増加することにより血圧上昇をもたらします。

また、バソプレッシン(ADH)の分泌を促進し、それが腎臓での水分の再吸収を増加させることによって、血圧上昇につながっていきます。バソプレッシンは脳下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンで「抗利尿ホルモン」といわれています。

ホルモンの定義は、①~③のとおりです。

① 特定の細胞でつくられ,

② 血流で標的臓器に運ばれて

③ ホルモン特異的標的臓器(細胞)に作用して特定の応答を引き起こす物質

ホルモンの働きや分泌する臓器は多岐にわたりますが、化学構造上の分類は3つになります。

イ ペプチド・タンパク質系ホルモン

ロ ステロイド系ホルモン

ハ アミノ酸誘導体系ホルモン

インスリン自身も体内にナトリウムを貯蔵させる働きがあります。

そして、インスリンとアンジオテンシンはお互いに相手の分泌を高める作用をします。

肥満になってインスリン抵抗性が増しインスリン分泌が増えるとそれがアンジオテンシンの量を増やし、さらにそれがインスリン分泌を促すといった負のループができてしまいます。その結果、動脈硬化が進行して…。

という状況になるのです。

昔は「風邪は万病のもと」といいましたが、「風邪」を「内臓脂肪」を置き換えても通じるものがあるかもしれません。

3 『脂質異常症』と内臓脂肪

脂質異常症とは血中の脂質のバランスが崩れる病気です。3種類に分類できます。

①「高LDLコレストロール血症」LDLの値が高くなる症状です。

②「低HDLコレストロール血症」HDLの値が低くなる病気です。

③「高トリグリセリド血症」中性脂肪の値が高くなる病気です。

中性脂肪やコレストロールは脂質で水に溶けづらいため、単体では血液中をめぐることができません。そこで、リポタンパクと呼ばれる微粒子に含まれて血中を運ばれていきます。

リポタンパクとは血液の中で水に溶けない脂質を、吸収部位や合成部位から使用部位へ運搬するための複合体粒子で、脂質とアポタンパクが結合したものです。

LDL、HDLはリポタンパクの一種で、LDLは「低密度リポタンパク」、HDLは「高密度リポタンパク」といい、LDLはHDLに比べると、低密度でかなり大きなものになります。

LDLに含まれているコレストロールをLDLコレストロールといい、HDLに乗っているものをHDLコレストロールといいます。コレストロール自体は同じものです。

コレストロールはあまり良いイメージがありませんが、身体にとって必要なものです。細胞膜の構成成分であり、ホルモンの原料にもなります。またビタミンDの素材にもなりますし、胆汁を作るときにも必要です。

コレストロールは体のいろいろなところで使われているのです。

【高LDLコレストロール血症】

肝臓で合成された中性脂肪とコレストロールはVLDLというリポタンパクに載って血中に放出されます。VLDLはLDLよりも大きくて低密度なリポタンパクです(Very Low Density Lipoprotein の頭文字を取ったものです)。

VLDLは中性脂肪を体内の細胞に渡していき、コレストロールの比重が大きくなったLDLに変化します。このLDLが細胞に取り込まれることでコレストロールを供給していきます。

LDLコレストロールは酸化されやすいという特質があります。そしてLDLが多すぎるとそれが血管壁に蓄積され、さらに酸化されてしまうのです。すると、酸化LDLを異物とみなした免疫細胞が攻撃を仕掛けてきます。すると炎症を生じます。その結果、血管が障害を受けて、内壁が厚くなったりして動脈硬化へとつながっていきます。

LDLコレストロールを「悪玉」ということがありますが、LDLコレストロール自体は体に必要なものです。その数が多すぎると弊害が出てくるのです。

【低HDLコレストロール血症】

HDLはLDLの反対の働きをします。

LDLは体中にコレストロールを分配してまわりますが、余ったコレストロールを回収して肝臓に運ぶ役割をしているのがHDLです。

HDLは血管壁の酸化コレストロールも回収します。そのため、HDLが正常に機能していると動脈硬化を防止することができます。

HDLの量が少なくなってしまうと、余ったコレストロールを十分に回収できなくなってしまうため、血管壁に酸化コレストロールが蓄積され、動脈硬化になりやすくなってしまうのです。

【高トリグリセリド血症】

トリグリセリドとは中性脂肪のことです。

血中の中性脂肪が多くなり過ぎた状態が続くとLDLが小型化してsd-LDLとなります。全部がなるわけではないですが、sd-LDLが増えてくるのです。

小型化すると血管壁に侵入しやすくなり同時に酸化されやすくなります。通常のLDLよりもタチが悪くなるのです。そこでsd-LDLコレストロールのことを「超悪玉コレストロール」などと呼ぶ人もいます。

また、「高グリセリド血症」では、VLDLから少しだけトリグリセリドが取り除かれた「レムナント」という物質が血中にたまります。レムナントとは残留物という意味で、脂肪が不完全燃焼した時にできるものです。

レムナントも血管壁に入りやすい性質があり、血管壁に入り込んだレムナントを異物とみなして免疫細胞が攻撃を仕掛けます。炎症が発生して血管を痛め、動脈硬化へとつながっていきます。

肥満が原因で、高濃度インスリン血症になってしまうと、

 肝臓からVLDLが多く出るようになる。それは血中の酵素によってLDLへと変化する。

② 細胞はリポタンパク中の中性脂肪の利用がしづらくなる。それはインスリン濃度が高いと、中性脂肪を取り出す酵素の働きを阻害するから。

①と②の結果、リポタンパク質中の中性脂肪が蓄積してしまう、というわけです。

糖尿病、高血圧、脂質異常症は肥満に起因する疾病です。

高血糖はAGEsを血管に蓄積し、高血圧は血管に高い圧力をかけ、脂質異常はコレストロールを血管に蓄積させます。