1.動脈

酸素と栄養分に富む動脈血を身体各部に運ぶ血管が動脈です。末梢にいくにつれて細くなり、最終的には毛細血管につながります。毛細血管では酸素および栄養分を組織に供給し、二酸化炭素その他の代謝産物を組織から受取ります。

毛細血管から心臓へ向かう血管を静脈といいます。動脈は厚くて弾力性がありますが、静脈は、平滑筋細胞が少なく中膜が薄くなっています。そのため血管壁は動脈よりも薄くて弾力性にも乏しくなっています。

動脈の壁は内膜、中膜、外膜の3層からなっていて、伸展性と弾力性に富んでいます。

外膜は結合組織から成り、中膜は平滑筋と弾性繊維から成っており、内膜は内皮細胞でおおわれています。

 

内皮細胞

内皮細胞は血管内腔の表面を覆う内皮を構成する細胞で扁平な形状をしています。リンパ管内腔にも存在します。血液やリンパ液成分を保持するとともに、血管内の血液と周囲の組織との間での細胞移動や、栄養素や老廃物、酸素や二酸化炭素などの物質交換を担っています。

物質透過は一般臓器の有窓毛細血管にみられる細胞のすき間(小孔)などを通して行われます。ほかに脳の血液脳関門のように、細胞どうしが密接に結合(タイト結合)する特殊な内皮構造をもち、バリア機能を果たす血管内皮細胞もあります。

また、内皮細胞はエンドセリン(ET)のほか、一酸化窒素(NO)プロスタグランジンI2(PGI2)およびプラスミノゲンアクチベーター(t-PA)など、さまざまな血管作動性物質(因子)を産生し、それらが血管平滑筋の収縮や弛緩をコントロールするほか、血管内での血液凝固を阻止するとともに、血栓形成を抑制するように働いています。

<エンドセリン(ET)>

エンドセリン(ET)には、ET-1、ET-2およびET-3の3種類が存在します。

ET-1は強力な血管収縮物質であり、体の様々な器官において、からだを正常に機能させる役割を担う一方で、病気の進展に関与することが知られています。

例えば、

・血管壁では、血管収縮を正常に保つ働きをしています。一方、高血圧、アテローム性動脈硬化症およびクモ膜下出血後の血管攣縮の進展に関与すると考えられています。

・心臓では、心臓の収縮力と収縮率に影響します。一方、うっ血性心不全における心肥大およびリモデリングを進展させると考えられています。

・肺では、気道および血管が正常に働くように調整しています。一方、肺高血圧症の進展に関与すると考えられています。

・腎臓では、水とナトリウムの排泄、および酸-塩基バランスを調節する働きをしています。一方、急性ならびに慢性腎不全に関与していると考えられています。

脳では、循環中枢や呼吸中枢を調節しており、またホルモン放出をコントロールしています。

<NO>

血管内皮細胞より産生されたNOは、血管平滑筋を弛緩させて血管を拡張させる働きがあるので血圧を低下させることになります。

ニトログリセリン・亜硝酸アミル・一硝酸イソソルビドなどの亜硝酸誘導体はNOに変化して心臓の冠動脈を拡張させるので、狭心症などの治療に用いられています。

また、NOは血小板内のcGMPレベルを上昇させることにより血小板凝集を抑制すると考えられています。

NO産生が低下することにより、その主作用である血管拡張反応が減弱し、血管の収縮促す物質が増えることによって血管収縮優位の環境出来上がることが動脈硬化の元凶とされています。

<プロスタグランジンI2(PGI2)>

プロスタグランジンI2は、主として血管内皮細胞内で産生される生理活性物質で、細胞内のcAMPを増加させ、血小板の内皮細胞への粘着凝集を阻害することにより、血栓の発生を抑制します。また、血管拡張作用もあり血管の収縮作用の制御を司ることが知られています。

<プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)>

身体の中にはもともとプラスミンという酵素があります。ふだんは、血液の中で不活性なプラスミノゲンとして存在しています。血液中でフィブリン血栓が生ずると、プラスミノゲンアクチベータ(PA)と呼ばれる血液中のタンパク質分解酵素がプラスミノゲンに作用して、これを活性型のプラスミンに変えます。プラスミンは血栓に反応してフィブリンを分解します。

NOとPGI2は、相互に作用して血小板凝集を抑えて血液凝固を抑制するように働きます。さらに、t-PAは、プラスミンを活性化してフィブリン線維(血栓)溶解(線溶)を促進し、血管内での血栓形成を阻止する役割を果たしています。

2.血管内皮細胞の機能が衰えると…動脈硬化につながる

こうした血管内皮機能は、糖尿病や高血圧およびメタボリックシンドロームなどの生活習慣病が原因で機能低下をきたすことが多く、その結果、動脈硬化を引き起こします。

また、血管内皮細胞が強い障害を受けると内膜からはがれ落ち、はがれた部位に血小板が凝集して血栓が形成されます。さらに、酸化LDLなども血管内皮細胞からのNO産生を低下させ、結果としてNOによる血小板凝集の抑制作用が弱くなり、血栓が形成されやすくなります。同時にプラスミノゲンアクチベーター(t-PA)の産生も低下し、血栓が溶解されないことになります。

動脈硬化とはどのような状態なのか

血管は、体全体の健康に大きく関係しますが、年をとるにつれて弾力を失って厚くなったり、硬くなったりして老化していきます。

心臓は1分間に70回拍動して、毎分5リットルの血液を動脈に押し出しています。そのため、動脈には常に拍動の衝撃が加わります。血管が軟らかい場合には、この衝撃を吸収することができますが、血管が硬くなってくると、衝撃を吸収しきれずに、血圧が上昇します。

高血圧になると、血管の硬化が進行して全身の臓器に悪影響を及ぼします。

 

「動脈硬化」とは「動脈の壁が厚くなったり、硬くなったりして本来の構造が壊れ、働きがわるくなる病変」の総称です。もともと病理学で使う呼び方で、病名ではありません。

動脈硬化の初期症状は赤ん坊のころから現れてきます。10代で急速に進行し、30代で完成された動脈硬化が現れてきます。

動脈硬化は中高年になってから発生する病変ではないのです。誰でも一生付き合っていかなければいけないものです。

大切なことは、動脈硬化を進行させる「危険因子」に気を付けて予防し、進行を遅らせていくことです。

動脈硬化には3種類タイプがあります。アテローム(粥状)硬化中膜硬化細動脈硬化です。一般的に「動脈硬化」といえばアテローム硬化をさすことが多いです。

アテローム硬化は、大動脈や脳動脈、冠動脈などの比較的太い動脈の内膜の中にコレステロールなどの脂肪からなるどろどろの粥状物質が蓄積しアテローム(粥状硬化巣)を形成して、次第に肥厚することで動脈の内腔が狭くなっていきます。

これが原因で、狭心症、不安定狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、大動脈瘤、腎梗塞、手足の壊死などが起こります。

 

動脈硬化は自覚症状のないままに進行していきます。血管の内膜にたまったコレストロールは血管の内側に向かって次第に盛り上がっていきます。そして、50代~60歳代になると血管自体が狭くなってしまいます。その結果、血流と内膜の間にストレスが生じ、内膜を覆っている内皮細胞が壊れ、血栓ができます。この血栓で血管が詰ると、心筋梗塞などの発作として、初めて症状が現れるようになります。

どのように進行するのか

内皮細胞の層は、血液から必要な成分を取り込み、他の余計な成分は入り込まないようにしている組織です。また、血液が固まるのを防ぎ、血液が内皮細胞にくっつかないようもしています。この際に、大きな役割を果たしているのが、前に書いた内皮細胞から出ている「生理活性物質」です。特にNOは大きな役割を果たしています。

①内皮細胞が破損される

高血圧や高血糖や感染症で内皮細胞に傷ができると血液中の低比重リポ蛋白(LDL)が内膜に入り込み、酸化を受けて酸化LDLに変化します。

②酸化LDLとマクロファージ

酸化LDLを処理するために白血球の一種である単球が内膜へとはいり込み、マクロファージに変化します。

マクロファージは酸化LDLを取り込み、それがたまって内膜が厚くなっていきます。やがてマクロファージ自体も死んでいき粥状化します。こぶのように奈多部分を粥腫とかアテロームといいます。

③アテローム

粥腫には、脂質(コレステロールや中性脂肪)、カルシウムや様々な線維性結合組織を含んだ細胞(ほとんどはマクロファージ)、細胞の死骸から構成さています。

きわめて脂肪分に富んだものから、脂肪分が乏しく線維性成分が目立つものまで、さまざまなタイプがあります。

問題となるのは、破綻・崩壊しやすい不安定な“おかゆ”状病変です。その特徴として「脂質の占める部分が多い」ことがあげられます。逆に「白みがかった脂質と炎症細胞が少なく、厚い被膜を持つ粥腫」は破綻しにくいといわれています。

 

病変部分がくずれる(崩壊・破綻)こと自体が、心筋梗塞の原因とされています。

3.動脈硬化の予防

動脈硬化の原因は一つだけではありません。年齢とか性別とかは自分ではどうにもなりませんが、生活環境は、自分で制御して変えることができます。生活環境にかかわるにかかわる主要な危険因子は5つあります。

(1)高血圧の予防

高血圧は、過剰なエネルギーの摂取や肥満、塩分の多い食事、運動不足、お酒の飲み過ぎなどの環境要因が加わることによって発症します。

高血圧と食事は密接な関係をもっています。食生活の中では特に塩分が重要で、塩分の摂取量が高いと血圧が上昇することは、昔から良く知られています。

現在、日本人1日あたりの平均塩分摂取量は9.9g(平成28年国民健康・栄養調査)です。日本高血圧学会のガイドラインでは1日6g未満が推奨されています。ちなみに、欧米のガイドラインでは理想的な摂取量を3.8gとなっています。

日本人はまだまだ減塩する余地が大きいということです。

<減塩>

・全体的に薄味になれる

・揚げ物にはしょうゆやソースではなくてレモン汁をかけて食べる

・ラーメンやソバの汁は全部飲まない

・出汁や香辛料を聞かせて塩分を抑えた味付けにする

<カリウム摂取を意識する>

カリウムは、ナトリウムとともに、細胞の浸透圧を維持するなど人体には欠かせない物質です。カリウムは腎臓でのナトリウムの再吸収を抑制して、尿中への排泄を促進するため、血圧を下げる効果がありますので、カリウムを多く含む食物を意識的に食べるようにします。

日本人の食事摂取基準(2015年版)では、18歳以上男性では1日2,500mg、女性では2,000mgです。また現在の日本人の摂取量を考慮した、高血圧の一次予防のための目標量として、18歳以上の男性では、3,000mg、18歳以上の女性では、2,600mgが設定されていますが、世界保健機構(WHO)が2012に提案した高血圧予防のために望ましい摂取量は成人で1日に3,510mgとされています)。腎臓の悪い人は摂りすぎに注意です。

カリウム含量の多い食べ物

・野菜や果物

・コンブやヒジキなどの海藻

・サトイモやサツマイモなどのイモ類

・大豆やインゲン豆などの豆類(納豆も)

<肥満>

肥満も高血圧に悪影響を与えます。

肥満は高血圧だけでなく、高脂血症や糖尿病などになることも多く、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を起こす割合が高くなります。

やせると血圧が下がることは明らかにされており、太っている人は身体を動かし運動量を増やしたり、食事の摂取カロリーを減らしたりして、減量することが必要です。BMIで25未満を目指すようにします。

(2)脂質異常症の予防

脂質異常症の人は、過食や高脂肪食などの悪い食習慣を持っていることが多いです。早食い、ながら食い、まとめ食いは過食につながります。

脂質異常症の予防・改善の基本は食事にあります。

脂質異常症を予防するために効果があるもののひとつが、食物繊維を多く含む食材です。

・ゴボウやニンジン、大根などの根菜類

・イモ類、こんにゃく

・キノコ類

・海藻類

・果物

食物繊維は1日あたり25~30gを摂取するのが望ましいです。

白米に玄米を混ぜる、精白パンよりもライムギパンや全粒粉のパンを食べるなどすると主食でも食物繊維を取ることができます。

コレステロールや中性脂肪に直結する牛、豚、鶏などの動物性脂肪を減らし、その代わりに魚や植物の油を多くするといった工夫をしていきます。

サバやイワシ、アジといった青背魚にはEPAが含まれているのでコレストロール、中性脂肪を低減させる効果が期待できます。

(3)肥満の予防

未満の程度簡単に見る方法としてBMIを使うことが多いですが、日本人は18.5から25の範囲が適正体重とされています。

肥満した人は血液中の脂肪が過多になりやすく、高血圧、高尿酸血症、糖尿病などを合併しやすい傾向にあります。

他の危険因子にも言えることですが、食事の見直しをして、適度な運動をするように心がけます。運動は、歩くことから始めるとよいと思います。

酒の飲みすぎにも注意が必要です。

(4)糖尿病の予防

インスリンの分泌の低下やインスリン抵抗性の増大によって発症する糖尿病を2型糖尿病といい日本人の糖尿病患者の95%がこのタイプです。2型糖尿病の発症には生活習慣が大きくかかわっています。食べ過ぎ、特に糖質や脂質の取りすぎと不規則な食事などの食生活の乱れ、運動不足などが引き金になります。またストレスや体質が影響することもあります。

高血糖になっても初期には自覚症状がありません。やがて、「喉が渇く」「頻尿になる」「疲れやすい」「体重の減少」などの自覚症状を感じるようになります。自覚症状を感じる頃には病状はかなり進行しています。

血液中に余分な糖分があると、体内のたんぱく質や脂質と結びついて変性させ、老化促進物質であるAGE(糖化最終生成物)を作り出し、動脈硬化を進行させます。

糖尿病患者は腎臓や目の細い血管がAGEによってもろくなってしまうため、合併症になる危険性が高まってしまいます。糖尿病の3大合併症は「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」です。糖尿病が発症してから5年くらいで現れてきます。

◆食事に気を付ける

・食品の種類は多くする。食物繊維の多いもの、酢の物を取る

・うどんよりは食物繊維の多いそばを食べる

・塩分は控えめに

・3度の食事を均等にとる(血糖値の日内変動を抑えるため)

・飲酒はほどほど(ビール中瓶1本程度)

・揚げ物、フライは控える

◆有酸素運動

インスリンはブドウ糖をグリコーゲンに変えて筋肉に蓄えます。有酸素運動をすとインスリンの感受性が高まって血中のブドウ糖の処理能力が高まります。

運動は、インスリンの感受性を高めるほかにも、肥満予防やストレスの解消の効果もあります。血流がよくなるため高血圧も改善し動麻薬硬化の予防となるほか心肺機能の向上や体力の向上も期待できます。

・速めのウォーキング、ゆっくりのジョギング

・水泳

・サイクリング

・社交ダンス

・階段の利用

・家事(掃除、洗濯)でこまめに動く

運動の時間帯は食後1~2時間後くらいがよいです。この時間帯に血糖値がピークになるからです。

(5)喫煙の悪影響

タバコの煙は、高脂血症、高血圧、糖尿病などに悪影響を与えます。煙に含まれる一酸化炭素、ニコチンはLDLを悪性化させ、HDLを減らすなどの作用があり、動脈硬化を促進します。また、受動喫煙の危険もありますので他人にも迷惑をかけることになります。

 

酸化LDLは血管壁を傷つけ、健康な血管が本来持っている血管拡張作用を損ないます。また酸化LDLが血管壁に沈着すると、白血球のマクロファージがこれを異物と見なして集まり、酸化LDLを次々に捕食して動けなくなります。その残骸がプラークと呼ばれる粥状の物質となって血管壁にたまり、動脈硬化を引き起こします。

禁煙すると

「長年吸っているから今更やめても…」など思う必要はありません。

禁煙すると数日後には味覚、嗅覚が敏感になります。また、一酸化炭素レベルが非喫煙者と同じレベルになります。

禁煙後24時間で心臓発作のリスクの低下がみられますが、その後比較的早期にみられる健康改善には、せきやたんなどの呼吸器症状やインフルエンザなど呼吸器感染症にかかる危険が低下することがあげられます。

禁煙後早ければ1ヵ月たつと、せきや喘鳴などの呼吸器症状が改善します。また免疫力が回復して、かぜやインフルエンザなどの感染症にかかりにくくなります。

24時間後:心臓発作の可能性が少なくなる

数日後:味覚・嗅覚が鋭くなる

2,3週間後:血管・心臓の循環機能がよくなる

1年後:肺機能の改善がみられる

2~4年後:虚血性心疾患の危険が35%低減する。脳梗塞のリスクも軽減する。

5~9年後:肺がんリスクが低減する

10から15年度:病気にかかるリスクが非喫煙者のレベルまで近づく

禁煙外来

禁煙外来は、総合病院のほか、内科や循環器科、婦人科、外科、心療内科、耳鼻咽喉科などで行っています。

医師の指導の下に行いますので、離脱症状が起こってもきちんとフォローしてくれます。相談にも乗ってくれますので成功する確率は高いと思います。

また、条件を満たせば、健康保険等を使って禁煙治療ができます。

<保険診療の条件>

①コチン依存症の判定テストが5点以上

②[1日の平均喫煙本数×これまでの喫煙年数]が200以上

(2016年4月より35歳未満には上記要件がなくなりました)

③ただちに禁煙を始めたいと思っている

④禁煙治療を受けることを文書で同意している

経済面でも、禁煙治療(禁煙外来)を受けるほうが、結果的にタバコ代より安くなるメリットがあります。

1日1箱吸っていると8週間で26,000円になりますが、この金額があれば、同じ期間で十分に保険診療を受け、禁煙することができますることができます。

禁煙をする際には一考してもよいと思います。